laoshuaidamiのブログ

2011年2月から2016年5月までの北京生活と辺境を含む中国全土および周辺国への珍旅行の記録です。

2012年6月8日

中国の大学入試について

6月7日の朝、街で「高考生在」(大学受験生がいます)という貼り紙をしたタクシーを見かけました。
6月7日~8日「全国大学統一入試」、通称「高考」(※)が行われ、全国で915万人がこれを受験しています。
※ 本試験の名称が「全国普通高等学校招生入学考試」と呼ばれていたため(2008年から上記に改称)、この通称となっている。
日本や韓国と同様、中国はいわゆる学歴社会であるため(「科挙」の流れを組む東アジア独特の思想とも言われている。)、大学入試に対する世間のサポートは厚く、国際会議の時間をズラしたり、無料タクシーが出たり、親たちが会場周辺で待機したり、と一大イベントの様相を呈しています。

中国の大学は、9月入学のため、この時期(6月初旬)に行われます。
また、日本と違い、それぞれの大学が試験を行うのではなく、入試はこの高考一回のみで、その成績により、入学する大学が決まる仕組みになっています。
詳しく述べると以下のとおりとなります。
1.試験の実施方法・内容
○全国一斉の試験であるが、その試験問題は各省ごとに異なる。
○受験生は、地元の高校などで受験。
○各大学は、各省ごとに定員枠を設け、受験生の志望にもともとづき、合否を決定。
2.出願から合格までの流れ
5月    :出願(複数出願、出願方法は以下に記述)
6月初旬  :試験(高考)の実施
6月20日頃 :試験点数の発表
6月下旬    :各大学の合格ラインの発表
6月末   :各大学から受験生への合格の通知
3.出願方法
 ○重点大学(政府が指定した優良大学)3校(第1~第3志望、一部には2校という情報もある)、非重点大学(志望数は重点大学に同じ)、その他の専門学校の出願が可能。
 ○しかし、第2~3志望の場合の扱いは極めて不利となる。
 ○このため、例えば重点大学である「北京大学」には合格できないが「中国人民大学」に合格できる点数を取った人が、第1志望を「北京大学」と書いていれば、「中国人民大学」にも合格する可能性は低く、非重点大学の第1志望の大学に行かざるを得ない可能性が非常に高い。


このように、受験勉強もさることながら、この志望校選びが非常に重要な要素となり、これによってその後の「運命」が決まる仕組みとなっています。
もっとも、この志望校選びは、基本的に「親の仕事」で、5月親たちは様々な情報をもとに日夜志望校選びをするそうです。「この時期は親の方が痩せる。」と中国人の知人の方がおっしゃっておらたことが印象的にあります。


なお、この一発勝負と実力以外の要素がある「高考」に対する批判もあって、昨今では、大学が自主的に生徒を集める「自主招生試験」というものもあり、今年2月には7万人強が受験しています。しかし、9百万人に対しての7万人ですから、まだまだ極一部と言ってもよいでしょう。
ちなみにこの自主招生試験にも、清華大学グループ=華約、北京大学グループ=北約、北京理工大学グループ=卓越、などのグループがあり、それぞれのグループが共通試験を実施しているようです。

2012年5月15日

中国の食糧法について

 3月のレポート「直近の中国農業関連政策情勢」においても述べておりますが、中国においても「食糧法(糧食法)」を制定する動きがあり、先ごろ偶々これを翻訳する機会があったため、若干のコメントとともに訳文全文をご紹介することでレポートに替えさせていただきます。

 本年2月21日国務院法制弁公室(※)は、食糧法の草案(意見募集稿)を公布し、3月末までにネット等を通じての間に広く意見を求めること(パブリックコメント)としました、。
※ 日本の内閣法制局に当たるものと思われるが、日本の場合パブリックコメントは所轄官庁が行うため、この点が異なる。
 
全文は97条で構成されており、章ごとの構成は以下のとおりとなっています。
第1章 総則         全8条
第2章 食糧生産       全10条
第3章 食糧の流通と加工   全13条
 第4章 食糧の消費と節約   全  3条
 第5章 食糧の品質安全性   全  6条
第6章 食糧の調整と備蓄   全19条
第7章 食糧産業の支持と発展 全  8条
 第8章 監督検査       全10条
第9章 法的責任       全17条
第10 章 付則          全 3条

特徴的な点は以下のとおりです。
(1)上記構成からも分かるように、食糧の安全保障がその主な目的であり、食糧の調整と備蓄(第6章)に多くを割いている。
(2)対象範囲を、穀物およびその加工済み製品、豆類、イモ類とし、広範囲に渡る。
(3)輸出入を含む基本的・全般的な方針・計画は国家発展改革委員会が担当し、食糧備蓄・流通に関する分野は国家糧食局等、農業生産に関する分野は農業部が担当する。
(3)生産分野では、
①水害・干ばつ対策を含めた水利・水資源関係
②農業インフラの整備と耕地面積の確保
③遺伝子組換え作物の対する管理の厳格化、
④専業農家の発展と規模拡大
などについて記述されている。
(4)流通・加工分野では、
   ①購買(集荷)、貯蔵(保管)、加工を行う業者に対し許可・届出制度を実施すること
   ②食糧二次加工企業に対し、使用規模を制限することができること
   ③輸出入対し、割当管理を行うこと
などについて記述されている。
(5)消費・品質安全性分野では、節約の必要性が記述されている点が特徴的であるが、安全性に関しては食糧政策の主旨とは若干異なるため、本法での記述は漠然としており、また記述も少ない。
(6)調整・備蓄分野では、
   ①備蓄保管企業の資格制度を含めた備蓄に対する厳格な管理の実施
   ②国家間の輸出入、産地と消費地・省間の調整は中央(国)レベルで実施
   ③緊急時の介入、制限、備蓄の放出
  などについて記述されている。
(7)食糧産業・川下流通分野については、発展に係る支援策については記述されているが、多くは記述されていない。
(7)法にもとづく食糧分野に対する監督管理、法的責任と罰則規定が細かく定められている。


なお、機関横断的なこの草案を実質的にどの部署(国務院国家発展改革員会もしくは党中央)が作成したのか、関係各方面に聞いてみましたが、現段階では不明です。引き続ウォッチしていきたいと考えています。

2012年4月12日

中国の電力事情について

 北京は今週から急激に気温が上がり、日によっては昼間は25度近くにまでなります。
 2週間くらい前に最低気温がようやく氷点下を上回ったと思ったのですが、春をとおり越して一気に初夏に突入しつつある陽気です。
 気温が上がり夏に向かうと気になるのが電力不足の問題です。
日本では地震による福島第1原発の事故を受け、各原発が定期点検・運転停止していることにより電力不足が生じていますが、中国の場合は構造的な要因により、近年電力不足が叫ばれています。
基本的には、経済発展にともなう電力の総体的な受給のアンバランスが原因ですが、その他にも要因はあります。
そこで、中国の発電情勢とともに電力事情をご説明します。

中国の電力会社は、2002年にそれまで国内全ての発電、送電資産を1社で所有していた国家電力公司が分割され、以下のような発電事業者5社、送電事業者6社になっています。
<発電事業者>:中国可能集団公司、中国大唐集団公司、中国華電集団公司、
中国国電集団公司、中国電力投資集団公司
<送電事業者>:東北電網有限公司、華北電網有限公司、華董電網有限公司、
華中電網有限公司、西北電網有限公司、南方電網有限公司
 このように、発電事業者と送電事業者とが分かれている点が特徴的であると言えますが、発電5社の地域性は無く、送電事業者は地域によって分けられています。
 送電事業者が地域によって分かれているため、それぞれ補完し合うこと(特に南北間の補完が必要であることから「南北互供」と言われています)が必要ですが、現在それが必ずしもうまく機能していない状況にあります。

 次に発電設備ですが、火力発電が7~8割、水力発電が約2割、原子力を含むその他発電が数パーセントというような構成となっています。
 このなかで、特徴的なのが、火力発電のほぼ全量が石炭発電であり、火力発電に締める石油の割合が極めて少ない点です。
 何故石炭が多いのかというと、中国には石炭が豊富にあり、エネルギーの国内調達を前提として発電所を建設してきたことにあります。
 しかしながら、石炭を産出するのは主に内陸部にあり、電力を消費するのは主に沿岸部にあるため、石炭を長距離で輸送することが必要になってきますが、この輸送力が大きな壁となっています。
このため、石炭産地に近い内陸部で発電し送電線で輸送する「西電東送」事業が現在すすめられていますが、未だ途上にあります。
 
 加えて、近年石炭の需給がひっ迫し、石炭価格が上昇していますが、電力料金は国が定めているため、原料の高騰を電力価格に転嫁することができず、電力会社は苦しい経営を迫られています。
 このため、一部では電力会社が損失を拡大させないために操業を落としているとも言われています。


 このように、
①需給の地域間のアンバラランスに対し、対応できていないこと。
②一部のエネルギーに極端に依存していること。
③規制緩和による効果がうまく機能していなこと。
なども、電力不足の大きな原因となっているようです。


最後に皆様のご関心の高いであろう原発ですが、現在以下のような状況にあります。
稼働中 14基(うち1基は、本年4月稼働)
建設中 30基
計画中  4基
なお、これらは全て沿岸部に位置しています。