laoshuaidamiのブログ

2011年2月から2016年5月までの北京生活と辺境を含む中国全土および周辺国への珍旅行の記録です。

2011年7月11日

中国の酪農・乳業情勢について

 別件で「中国の酪農・乳業情勢」を調べる機会があったので、その際に書ききれなかった内容を含め、まとめてみました。これをレポートに替えさせていただきます。

1.歴史(近代)
  かつて中国には、一部遊牧民族を除き、牛乳を飲む習慣がほとんど無く、病人や乳幼児が飲むものとされていました。
  これが1979年の改革解放による農村改革により、畜産業の振興と相まって生産が増加し、これにともない消費も増えていきます。
  特に1997年国務院は、「全国栄養改善計画」を発表し、乳用牛飼養と乳業を重点的発展企業と位置付け、以降も2000年の「学生飲用乳計画」「中国児童発展綱要」などにより、子供、特に大都市を中心とした子供を対象に飲乳の習慣化を図ります。
  このように、飲乳の習慣化を図る背景としては、「1990年代後半以降、穀物、豆類、いも類など糧食作物の生産過剰から作付転換必要であったこと」や、「WTO加盟にともなう国際競争力のある農業への再編が必要であったこと」など生産サイドの事情も多分にあります。
  あわせて、最近では、三農問題(農業振興、農村の経済成長、農民の増収と負担減)の解決に向け、農家の収入の増大のため、酪農が奨励され、乳牛を持たなかった農家も1~2頭の乳牛を飼養するようになりました。
  ※ WTO関係以外は、日本の1960年代の「選択的拡大」と酷似しています。
  また、乳業メーカーについては、農家が生産する農産物の加工販売などを行い地域の農村経済の発展に寄与する企業、いわゆる「龍頭企業」として認められ、様々な優遇措置が取られたことから、現在では1500~1600社もあると言われています。
※ 業界最大手が、内モンゴル自治区にある「蒙牛」。二番手が同じく内モンゴル自治区ある「伊利」です。
   「蒙牛」は、伊利の副総裁であった牛根生氏が1998年に数人の部下とともに設立した伊利のいわゆる分家です。
 両社は、北京オリンピックの公式スポンサー獲得のために、デッドヒートを繰り返し、最終的に伊利が勝利したことは有名な話です。


2.酪農生産の構造と酪農バブルの崩壊
  上記のような政策による後押しと全体的な経済発展に支えられ、酪農・乳業産業は、 投機的要素を徐々に強くしていきます。
 2000年前後から2004年までは、「酪農バブル」の様相を呈し、その後崩壊します。
 例えば、バブル期に1頭15,000元で取引されていた初妊牛は、3分の1の5,000元程度となりました。バブル期においては、生産者の多くは酪農経営の収益を生乳販売ではなく生体牛の販売から得ようとしていたため、その打撃は深刻なものとなりました。
  もともと、酪農ブームが生乳や生体牛の高騰をもたらし、ブームが急転し価格が下落し多くの酪農経営が破綻、需給が引き締まると再び酪農ブームが生じる、というミルクサイクルともいえる周期的な変動をもっていましたが、このバブル崩壊の傷跡は大きいものとなりました。


3.メラミン事件
  バブル崩壊はあったもの、それでも経済成長のもと、業界全体として右肩上がりの状況にありました。それを崩壊させたのが、2008年のメラミン事件です。
  業界トップを含む22の乳業メーカーの商品からメラミンが検出され、消費者の信頼は地に落ち、以降生産・消費の統計数値が2008年を越えられない状況が今もなお続いています。
  また、国務院衛生部は、メラミン事件を受け2010年4月に「乳製品安全国家基準」を発布しましたが、これにより乳製品コストの増大、基準に適合しない企業の淘汰(全体の2割~半数程度と推測される)など、業界としては依然不安定な状態が続いています。
  一方で、この基準値すら業界側、特に一部業界大手に有利な基準であるとの論争が業界内部の告発により巻き起こり(広州市乳業協会理事長の王丁綿氏)、再び消費者の関心が高まってきています。


4.今後の可能性
  このようにメラミン事件を境に業界としては、依然落ち着きの無い状況続いていますが、これを克服すれば、まだ伸びる余地は大きくあります。
  例えば、現在販売されている牛乳のほとんどはロングライフミルクで、これは中国の輸送問題が大きく関係しています。現在の中国の流通網は、常温および冷凍輸送はほぼ整備されつつありますが(大都市間に限る)、チルド輸送の整備がまだまだ遅れています。これが整備されれば、更に消費が伸びる可能性があります。
  また、乳製品の消費の大半は牛乳やヨーグルトなどの液状乳で、バターやチーズの生産量は限られています。これは食習慣の問題と輸入品との競合問題が原因ですが、克服に向け、まだまだ知恵を絞る余地があろうかと考えられます。