laoshuaidamiのブログ

2011年2月から2016年5月までの北京生活と辺境を含む中国全土および周辺国への珍旅行の記録です。

2012年3月9日

直近の中国農業関連政策情勢について


旧暦年明け以降、諸々の農業関連政策が出されておりますので、それのご紹介と若干のコメントをすることで、レポートに替えさせていただきます。


2月1日、その年の最重要課題を採り上げる中央1号文件、「中共中央、国務院の農業科学技術革新の推進を加速させ、農産物の供給保障能力を持続的に強化することに関する若干の意見」が正式に発表された。中央1号文件は、2004年以降9年連続で「三農(農村、農業、農民)問題」をテーマとしている。
中央1号文件では、引き続き「三農」への財政支出を拡大させることを確定した他、農業の科学技術は国家の食糧安全を保障するための基盤的支柱であり、資源環境の制約を突破するための必然選択であり、現代農業建設を加速するための決定的な力であるとの認識の下、農村の科学技術をより突出した位置に置き、農業の科学技術への投入を大幅に増加させ、農業の科学技術の飛躍的発展を推進することが指摘された。(2/2人民日報)
 
繰り返しになりますが、中央1号文件は、国家の全ての政策のなかで最重要・最優先する課題を取り上げており、それが9年連続で農業関連政策であるということです。
中国における農業関連政策の位置付けがいかに重い位置付けであるかをお分かりいただけたかと思います。
なお、1982年~1986年の連続5年間も農業関連問題を取り上げています。
  
農業関連政策は、ご承知のとおり、国民全体に食糧供給の安定確保を目指す「食糧政策」と、自国の農業を育成する「農業政策」、加えて農家および農村環境の改善を目指す「農家・農村政策」の3つがありますが、今般の1号文件の内容は、技術革新によりこれら3政策をすすめる考えにあります。
つまり、自国の技術革新により、農業生産の増大、農家所得の向上、食糧供給の確保を図るというものです。

ちなみに、過去9年間の中央1号文件の表題は以下のとおりとなっています。
2004年:「農民の収入向上に関する若干の意見」
2005年:「農村における農作業を強化し、生産能力を高めることに関する若干の意見」
2006年:「社会主義新農村建設に関する若干の意見」
2007年:「現代農業の積極的な発展による堅固な社会主義農村建設を推進することに関する若干の意見」
2008年:「農業の生産基礎建設を強化し、農業が農民の収益増加に更に発展することを促進させることに関する若干の意見」
2009年:「2009年において農業の安定的発展と農民収入の持続的増加を促進させることに関する若干の意見」
2010年:「都市と農村の発展を計画的に調整し、農業・農村の発展の基礎を更に強固なものにすることに関する若干の意見」
2011年:「水利の改革と発展を加速する決定」

これまでの施策からすると、経済関連施策である「食糧政策」「農業政策」よりも、生活関連政策である「農家・農村問題」を優先してきた過程にありますが、昨年以降、若干趣を異にしている傾向が感じ取れます。
ただ、中国国内における都市と農村の格差は依然として現存する訳ですので「農家・農村政策」を優先するという路線は変わっていないと考えられますが、それだけそれ以外の食糧政策の重要度が増してきていることが伺えられます。

今年の中央1号分件の内容である技術革新の1つに、栽培技術の向上による増収がありますが、これに対して以下のような政策関連記事があります。

13日に発表された「全国現代農業発展計画」は、今後5-10年の発展目標を提出した。①2015年には中国の農業現代化が明確に進められるとともに、設備や科学技術レベルも向上し、条件を満たした東部沿海部、大都会近郊と大型開墾地域などの地域での農業現代化が最初に実現する、②2020年を目処に主要な農産物生産地域での農業現代化が実現する、③農業科学技術の進展による農業発展への寄与率が55%を超える。(2/14人民日報)

「全国現代農業発展計画」は1953年から始まった国家中期5ヶ年計画のなかの農業分野のそれで、農業部(日本の農林水産省に当たる)が作成し、発表しています。
なお、この5ヶ年計画の期間は2011‐2015年で、「中華人民共和国国民経済と社会発展に係る第12次5ヶ年計画綱要」(通称「十二五」と呼ばれる)という全体的な大綱にもとづき、各分野(各省庁)でより具体的な計画を策定しています。
そのなかで、2015年の農業のあるべき姿として、別紙のような数値が示されています。
  
表を見ると分かるように、「糧食」と言われる主要食糧の栽培面積が減っているなか、その生産量は4千万トンの増となっており、また、その他の作物・産品の生産量は増加しています。
この理由としては、
①農業の近代化・農家の所得向上のため、主要食糧より収益性の高い他の作物の生産面積が増大していくこと。
②あわせて、食生活の変化から主要食糧の消費の伸びが鈍化していくこと
が、考えられます。
この結果、主要食糧の面積減少のもと、生産量を拡大していくために、栽培技術の向上を始めとする技術革新が是非必要というセオリーになる訳です。
 
このことは早速実行に移され、以下のような興味深い記事もあります。
    
農業部はこのほど、2012年に全国範囲で農業科学技術促進活動を行い、重点的に500万人に上る農民を対象に専業研修を行い、延べ1億人の農民に農業科学技術を普及することを目指すことを明らかにした。(2/8人民日報)

 しかし、栽培技術の向上とは言っても、一朝一夕に効果が出るものではありません。
確実な増収を図るためには、バイオテクノロジー、つまり端的に言うと「遺伝子組み換え作物(GMO)」に頼らざるを得ないと考えられます。

これに関連するように、以下のような政策が発表されています。

中国国務院法制弁公室は21日、中国で初めて制定する食糧法の原案を公表し、3月末まで意見募集することを明らかにした。
 原案には、国による穀物の買い上げ・価格保護制度を廃止して穀物生産・流通を自由化することや、企業や個人が勝手に主要穀物の遺伝子組み換えを行うことを禁止し、研究や生産、販売、輸出入は関連法規に従うことなどが盛り込まれている。(2/22 新京報)


中国は2001年に「GMO作物安全管理条項」を制定しましたが、関連法規および規則・規定は未だ整っておらず、管理・監督責任が不明確であるという問題があります。
今回の「食糧法」により、初めて法的手段によりGMO管理を行うことになり、今後、GMO技術を主要食糧に使用する場合は、この法律にもとづき行うこととなります。
 その背景は、
①上記のような食糧生産・需給事情において、もはやGMOを利用せざるを得ない状況になりつつあること。
②しかし、もともとあった食品の安全性に対する問題が、GMOを利用することにより、更に高まる可能性があり、国家としてこれを厳格に管理していく必要があること。
③加えて、GMO開発を極力自国の力ですすめようとする意図があること。
などが考えられます。


以上のように近ごろ発表された農業関連政策が、部署が違うものの密接に関連付けられたものであることが分かります。
これが可能となるのは、中国の国家体制にあります。
政策の立案にあたっては、事務方である国務院(農業部はこの中にある)がこれを行いますが、この事前段階として指導機関である共産党が方針・骨子を作成しますから、国務院のそれぞれの部署が政策を作成しても、整合が取れる訳です。
なお、その共産党の方針・骨子の作成にあたっては、日本のように民意をあまねく聴取することはできませんので(実態ではなくシステム上の話)、学者の意見を聞くことが多くあります(というより、学者自身が作成する場合が多くあると聞きます)。
このため、学者の位置付け(特に社会科学系の学者)は日本に比べるとはるかに高いように感じられます。